別冊ラボラ|王様の数学|柳谷晃

































パパが子供のころ、ラジオの説明をしたものとか、テレビの技術、トランジスターなどの雑誌がたくさんあったんだ。そのころは、そんな技術がみんなの注目を集めていたんだ。

でも、コンピュータのソフトや、ハードの雑誌を見ても、どうして、そのように動くのか、なかなかわからないね。使っている技術が複雑になって、説明すること自体が大変なのかもしれない。

ダイオードやトランジスターが、どんなふうに動くか、君は知っている?

パパは、そんな技術の仕組みがどうなっているのか、とても興味があった。だから、よく雑誌を読んでいた。このまえも、トランジスターの機能を調べようとして、本を探したんだが見つからなかった。

今日は、ジェットコースターのお話をしよう。

いつものように、基本的なお話だけしかしないよ。
どんな分野でも、いちばん最初の基礎が大切。
最初の簡単な構造をいいかげんに勉強していると、後で大変なことになるよね。


君たちは、ある分野の基礎をちょっと背伸びしながら、ごまかすことなく勉強する機会はなかなか少ないんだ。でも、理系を強くするのは、こんなふうな教育なんだ。

君は、小さなころからジェットコースターが大好きだったね。
よく八景島に行っては、遊園地にあるジェットコースターに、並んでよく乗ったね。

ジェットコースターは、なぜ落ちないか、疑問におもったことはない?

ジェットコースターに乗った君の体には重力というものがかかることになる。
重力の感覚って、体でわかるかな? 重力の正体は物と地球との間に働く力、つまり君と地球は引っ張り合っている力だ。

君が知っているように、パパは高所恐怖症だから乗らないけれど、ジェットコースターの一番前と一番後ろはどっちが怖いか、分かるかな? 

いっしょに考えてみようよ。
そして、いっしょに結論まで、辿りつこう。

ここでは、車両が長く連結されたコースターで、キャメルバックを通るときのことを考えてみよう。

らくだの背中のように、上下しているジェットコースターのラインをキャメルバックと言うそうだ。

一番まえの車両が、キャメルバックのトップを昇り切って下に落ち始めるとき、最後部の車両は、まだトップに向かって昇りつづけている。このとき、最後部の車両は、昇り続けているから、スピードは減速しているはずだ。そして、最後部の車両は、キャメルバックのトップで、最も遅くなるはずだ。でも、最前部の車両は、そのとき、もう落ち始めているから、それに引っ張られている。

一方、最後部は、最前部に引っ張られて、加速しながらトップに向かっている。その結果、先頭の車両より速い速度で、トップを通過する。すると、遠心力というものがはたらいて、上向きの力を受けることになる。

だから、最後部に乗っている人が受けるGは、ゼロからマイナスになって、空中に浮くような、放り出されるような感覚になる。ジェットコースターのスリルはこの瞬間に感じるね。

逆に、最前部はボトムでスリルがある。最前部の車両は、ボトムを過ぎれば、昇りにかかるから、減速するはずだ。

ところが、トップとは逆にボトムでは、後ろの車両に押されて、速いスピードで下向きの遠心力を感じることになる。その結果、鉛直下方の重力を感じて、地面に突っ込んで行くようになる。

つまり、トップのスリルは最後部、ボトムのスリルは最前部ということになるんだ。これが結論だね。


ジェットコースターの設計は、一番に安全性を考えなければならないね。ここでどのくらいの速度が出ているのか、遠心力がどのくらいかかるのか、ちゃんと計算しなければ、ならないからね。その数値の根拠になるのが、ニュートン力学っていうんだよ。

今までの話の中の重力をG と普通書くんだ。そして、そのG を使って計算するのが、ニュートン力学の方法なの。このG が地球の重力なんだよ。

大事な数は、速度v、走路半径R、トップからの落差hとしておくと、式であらわせてしまうんだ。

これからは、ちょっと難しいかもしれないね。分からなくてもいいから、ちょっと聞いていてね。もう眠いかな?

速度と走路半径、トップからの落差を、かりに、ジェットコースターの3 要素と呼ぼう。それぞれの関係は、ニュートン力学のエネルギー保存の法則から、

WASEDABOOK_papa.bmp

という関係になるんだ。最初の位置エネルギーの関係は、2 次関数。そこから、速度を求めることができるんだ。

もうちょっと、考えると、キャメルバックのところで、落っこちていくエネルギーをためているんだね。これを位置エネルギーというんだ。

だから、落ちていけば、位置エネルギーを使って、速さを出すでしょ。速さが増えれば、運動エネルギーは増えるよね。位置エネルギーと運動エネルギーが、キャメルバックのところで転換されるということ。

ジェットコースターがどんどん昇って、次にいきおいよく落ちて、その力でまた昇って、その繰り返しをしているよね。そのときいつでも、ジェットコースターからレールの方に、力が向いているように普通は作るんだ。だから、ジェットコースターは落ちないの。